上司のヒミツと私のウソ
 あのさ、といいかけて安田は言葉を切り、「やっぱりいい」と目を伏せた。

「なに? 途中でやめないでよ、気持ち悪い」

 とがめると、安田はむっとしたように私を睨んだ。それから少し口ごもり、じゃあ聞くけど、と前置きする。

 こんなふうに気を遣うなんて、安田にしてはめずらしい。


「いまさら聞くのもなんだけどさ。あんたたち、うまくいってるんだよね?」

「……え」

「課長と付き合ってるんだよね?」

「……えーと」

「休みの日にふたりで会ったりとか、してるんだよね?」


 私は目をそらした。


「ちょっと。なに目をそらしてんの」

「『RED』の話にもどらない?」

「はあ? そんなの今はどうでもいいでしょ。どうなってんのよ」


 安田は質問をやめない。声が徐々にいらだちを含み始める。
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