上司のヒミツと私のウソ
「なんか、やばくないですか? このまま中止になるってことも、ありえますよね?」

 いつもの調子で、荒谷さんは興奮してまくしたてる。

 安田が急に席を立って、「ちょっと倉庫にいってくる」といった。

「西森、手伝って」


 倉庫の鍵を借りて廊下に出ると、安田が「なによあれ」と悪態をついた。

 ふたりで倉庫の中に入り、きっちりドアが閉まっていることを確認する。いつからか、倉庫で内緒話をするのがお決まりになっていた。


「ほんとうなのかな」

 荒谷さんのいうことがいつもあてにならないことはわかっているのだけれど、やはり心配になってしまう。


「開発が遅れてることは聞いてたけど、まさか延期だなんて」

「課長はなんていってた?」


 安田が段ボールの上の埃を払い、腰掛ける。

 私は倉庫の壁に背中をあずけて記憶を辿りながら、「なにもいってなかったとおもうけど。この前の定例ミーティングのときは」と答えた。


 安田がものいいたげな目を私に向ける。妙な間が空いた。
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