最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

彼に告白しよう、なんて考えはなかった。私なんかが受け入れてもらえるわけはなく、仮にそうなったとしても、ポンコツの心臓を抱えた私なんかじゃ、彼の足手まといになるだけだ。


便箋に想いを綴り、すぐに破り捨てる。そんな無駄な事を何度も何度もしたっけ。


高校はわざとレベルを落とし、中島君と同じ高校へ進んだ。当時担任の先生からしつこく一流の進学校を勧められたけど、私は言う事を聞かなかった。たぶん先生方は困ったろうけど、私の知った事ではない。


高校でも、私はずっと中島君を目で追っていた。クラスはずっと違ったから、話す機会は全然ない。言葉を交わしたのは僅かに数回、それも挨拶だけだったと思う。それでもそんな日は、天にも昇るほど嬉しかった。


中島君には彼女ができてしまった。明るく可愛らしい子だった。私なんかと違って。それでも私は彼を目で追うのはやめなかった。どうせ見るだけだから、彼に彼女がいたって関係ない。ちょっとは羨ましかったけど。


大学は一緒というわけにも行かず、少しずつだけど中島君への想いは薄れて行った。

チアノーゼでどす黒くなった唇を、濃い色の口紅で隠すようになったのは大学に入ってからだ。化粧は嫌いで、そうすると口紅ばかりが目立ってしまうので、考えた結果眼鏡を掛ける事にした。視力はいいから、素通しの伊達眼鏡。わざと目立つように太い黒縁の眼鏡にした。そうする事で、口紅の色が少しは目立たなくなったと思う。


大学を出ると、ある出版社に就職し、得意なプログラミングが出来る職場に就いた。


誰とも話さず、一人黙々と仕事が出来るその職場を私は気に入った。仕事は楽しいし、我ながら順調な日々を送っていると思っていたけど、またポンコツの心臓が悲鳴を上げだした。

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