最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
恭子さんは微笑を浮かべながら、ビーフストロガノフを美味しそうに食べている。金曜の夜は黙々と、どちかと言うと嫌そうな感じで食べていたと思うのだが……
「どうしたの?」
おっと、ついジッと見ちまったらしい。
「美味しいですか? それ」
「ええ。とっても美味しいわよ? そちらはどう?」
「あ、はい。こっちも美味しいです」
サイコロステーキは時々食べるが、2種類あると思う。牛肉を寄せ集めて四角くしたような、食べやすいが安っぽい感じのやつと、ステーキ肉を四角く切った、本格的(?)なやつ。ここのはもちろん後者の方で、柔らかいがそれなりに歯ごたえもあり、とても旨いと思う。
「そう? ちょっと食べてみたいかなあ、なんて」
「そうすか? どうぞどうぞ」
俺はそのひとつをナイフの先で恭子さんに向けて押し出した。
「半分でいいわ」
「あ、はい」
俺がナイフでギコギコと半分に切ると、恭子さんはそれを自分のフォークで刺し、パクっと口に含んだ。そしてモグモグすると、
「わあ、本当に美味しいわね?」
と言ってニッコリ微笑んだ。
か、可愛い。100万ドル、いや、もっとあるかもしんない。
「こっちのも食べてみて?」
「あ、はい。では……」
実はビーフストロガノフって食った事がなくて、その色の濃さからしょっぱいとか辛そうなイメージを持っていたのだが、食べてみたら意外にまろやかでむしろ甘かった。
その見た目とのギャップが、恭子さんみたいだなあ、なんて俺は思った。