最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「しかしだ。ああ、もう時間がねえな」
田上は腕時計に目をやり、焦りだした。コンソールの交代の時刻が迫っているのだろう。
「本当のところはそうかもしれないが、五十嵐女史は努力してるわけだ。おまえを好きになろうってな。それを彼女自身は望んでるわけさ。その気持ちを大事にしなきゃダメだ」
「ん……」
無理してるだけなんじゃないかなあ。
「何度も言うが、時間の問題なんだよ。その内彼女は深層心理でもおまえを好きになる。おまえは知らないふりしてそれまで待てばいい。わかったか?」
「ん……」
それでいいんだろうか。それってなんか、ずるくないか?
「もう行かないと交代の時間に遅れちまう。いいか、変な気は起こすなよ?」
「変な気ってなんだよ?」
「例えば身を引くとか、中嶋さんに彼女を譲るとか、そういう事だ」
「ああ、そういう事か……。考えてなかったが、そうすべきなのかな?」
「ち、違う! そういう事はするなと言ったんだ。ああ、クソッ。言わなきゃよかったぜ。俺はもう行くが、はやまるなよ? いいか? じゃあな?」
田上は慌てて喫茶室を出て行った。
田上には“するな”と言われたが、身を引いて恭子さんを中嶋さんに譲る、という考えが俺の頭にこびり付き、それを容易に取り払う事は出来そうもないな、と俺は思った。