恋する指先
触れた指先
「美伊、早くしろよ」


 そう言っていつも私を待ってくれた。


「ごめんっ!」


 朝寝坊の私は、いつも遅刻ギリギリで。

 そんな毎朝を繰り返しているのに、遅刻が一回もないのはいつも私を待ってくれる榛くんのおかげだった。


「行くぞ」


「うんっ」


 差し出された手に自分の手を重ねると、ぎゅってきつく握られて。

 榛くんのひんやりとした少し冷たい手が私の手を包む。

 うちの玄関がスタート。

 ゴールは小学校の校門。

 歩けば20分。

 走れば10分。

 歩けるのは帰りだけ。

 いつも私のせいで走って登校する榛くんに、申し訳ないなと思いながらも一緒に行ける事が嬉しくて、ついつい口元が緩んでしまう。


「何笑ってんの?遅刻しそうなのに」


 横目でチラッと睨まれて、小さく肩をすくめる。


「ご、ごめん」


 調子に乗りすぎた事に、不安な気持ちが押し寄せてくる。


「なら行くぞ。お前、コケんなよ?」


「だ、大丈夫だよ・・・多分」


 はっきり言って、運動神経は良くない。
 走れば短距離でも、長距離でも後ろから数えたほうが早いくらい遅い。
 

「・・・手、離すなよ」


「うんっ」


 ぎゅっと握った手を、しっかりと握りなおして私と榛くんは一気に走り出す。


 いつだって100メートル走は一番で、マラソンだって上位3位以内の榛くん。

 そんな榛くんに引っ張られるようにして、毎朝、私は手を繋ぎ走って登校する。

 上がる息も、乱れる髪の毛も、速さに追いつくための必死の足も、繋いだ手から伝わる榛くんの体温と、握り締める手の強さにはかなわない。

 いつだって、側にいた。


 家は斜め前のご近所さん。


 いわゆる幼馴染の私と榛くん。


 そんな関係がずっと続くと思っていた。




 
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