恋する指先
冷たい手
 やっと私の中の時間が、あの頃から動き始めた、そんな感じがする。


 電車に乗っても離れる事のない、榛くんの手の感触を、体温を感じながらフラフラしてきた頭で一生懸命に考えていた。


「美伊、しんどいなら寄りかかっていいから」


 座れる席がなかった私と榛くんは、出入り口のドアの前に立っていた。


 榛くんが握ってないほうの手で、出入り口の手すりを握り締めていたら、頭上から静かに低い声が響く。


「ん・・・大丈夫」


 本当はあんまり大丈夫じゃないけど。


 あんまり甘えるのは、嫌われそうで怖い。


 今だって、熱があるから一緒にいるだけで、本当なら、あの、1年生の女の子と一緒に帰っていたんだから。


 自分でも熱があるなんて気が付かなかった。


 お昼にお弁当を食べられなかったのも、熱があったからなのかな・・・。


 榛くんの告白された話を聞いたから、かもしれないけど。


 揺れるたびに気持ち悪くなってくる。


「美伊、顔が青いけど、本当に大丈夫なのか?」


 本当は大丈夫じゃない。


 でも、もう、降りる駅に着くはずだから。


 コクンと頷いて、手すりにしがみつく。


 早く、早く着いて・・・。


 ―――――ヒヤリ・・・


 額にそんな感触がした。


 伏せていた視線を上げると、榛くんが私の額に手を当てている。


「俺の手、冷たいから、気持ちよくない?」


 気遣うように触れる榛くんの大きな手が、私の額へと当てられて、高くなっている熱を少し下げてくれる気がした。


 
「・・・気持ちいい」


 額や頬に触れる冷たい指先に、体温が吸い取られるように熱を和らげる。


「ごめんね・・・榛くん・・・」


 その指先がピタリと止まって、離れていった。



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