とけていく…
(コンクールだと? 今の俺に、そんなたいそうな大会に出る資格なんてあるのか…?)

 手にした書類をもう一度見る。そして、真由美の言葉が頭の中で蘇っていた。

(二年前の運命を信じてる…?)

 さっきの真由美の言葉が脳裏によぎる。

「まさか… 有り得ない」

 彼は、その言葉を打ち消すように口に出しながら首を振った。

(それでも、まだやり直せる…?)

 立ち止まり、さっきの会話をもう一度思い返していた。

 うるさいくらいに蝉の声が響く真夏の昼間、空は今日も抜けるように青かった。その空に、煙のように立ち込める白い雲と、不快なほどに高い湿度と気温。それすらも忘れてしまうくらい、彼の全ての感覚は麻痺していた。
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