とけていく…
「…練習は、順調そうだな」

「あ、起こしちゃった?」

 顔を傾けながら義郎が突然そう口にすると、涼はびっくりした顔を浮かべた後、首を縦に振った。

「橋本が見舞いに来てくれてな。忙しいのに」

 義郎は、久しぶりに自慢の旧友に会えて喜んでいる様子だった。

「そう…」

 目を細め、その時の様子を思い出しているようだったが、義郎はそれを口にすることはなく、そのまま目を閉じてしまった。

「親父…?」

 思わず心配になり、涼はそんな父に声を掛けた。

「あぁ、いや…。久しぶりに音楽でも聞きたいなぁって思ってな。キケロ、覚えてるか?」

「…覚えてるよ」

 涼が答えると、義郎の目が細く開いた。

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