202号室の、お兄さん☆【完】
「本当に、荷物少ねーなぁ……」
弟の、皇汰(コウタ)は、私の荷物が入った段ボールを持ちながら、呆れている。


「だって、……勉強しかしてこなかったんだもん」

ぐすん、と涙ぐみながら、荷物を解いていく。

段ボール5箱ですむ私の引っ越しは、弟さえいれば充分だった。

「本当に、ジジイどこ行ったんだよ。ジジイのせいで、姉ちゃん、追い出されちまったのに」
軍手を外して、ぺいっと床に投げつけた皇汰は、イライラしながら文句を言う。


「しょうがないよ。すべり止めしか受からなかった私が悪いんだもん……」

へなへなと座り込みながら、3週間前のお父さんの表情を思い出す。


『T大もK大も、落ちたのか……?』

失望して、ズルッと眼鏡を斜めに歪ませたお父さんは、励ましも、激怒もしなかった。



そして、1週間後、海外出張の希望を出し、それから連絡がとれなくなった。


それをお義母さんは、ウキウキとあからさまに喜んだ。

『私が根性を叩き直してあげる』

そう言って、ボロボロのこの鉄筋コンクリートのアパートに引っ越すように命令された。
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