202号室の、お兄さん☆【完】

バイトが終わると、ふらりと1人で飛び出してしまいました。

無意識に向かった先は、一度しか行った事のない、場所。


昼間の風景と夜の風景では、分からない所だらけでいっぱい迷ってしまったけれど。


でも、ふらふらと目指しました。

携帯を強く握り締めて。


会えなくても良い。

会わなくても良い。


ただ、少しでも顔を見れば安心できる気がして……。





私は夜の石垣の階段を登りました。
あんなにキツかった108段の階段が、全然キツく感じられません。


それどころか、無心で登れて助かりました。



登りきった後は、急に足が竦んでしまい、膝をつきました。

夜の孔礼寺は、真っ暗で数メートル起きにある電灯には蛾や虫が集まっています。

静寂に包まれた参道を、足音を殺しながら歩いて行きます。


ドクドクと心臓が高鳴るのを感じながら。



人の気配のしない縁側の庭を横切り、アルジャーノンの友達がいる温室の前に差し掛かった時。





――彼が、いました。



タオルで乱暴に髪を拭いているから、お風呂上がりなのかもしれません。



けれど、居ました。

一目見たら、ドッと疲れが出てしまい、座り込んでしまいました。
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