202号室の、お兄さん☆【完】


「おい!! 階段は走るなっ!!」

階段を駆け下りる私に、どんどん岳理さんの声は近づいて来ます。

それでも夜の暗い階段を、全力で駆け下ります!


ゴーン

その時、孔礼寺の鐘が鳴りました。



「みかどっ」

「きゃああああ!!」

腕を掴まれた私は、岳理さんに後ろから抱き締められるように、


――階段に座り込んでしまいました。



「――はぁっ お、前……」


「ううっ は、離して下さい」

じたばた見苦しく暴れると、岳理さんは更に強く抱き締めて来ました。


「離せるワケないだろ」

落ち着いてきた岳理さんは、怒ったような心配した声で言いました。







「泣いてるお前を、

離せるワケ、……ないだろ」



ギュウッと抱き締める腕が強くなり、私は嗚咽を隠すのを止めました。


そう、 私、


岳理さんの顔を一目見たら、安心して…………

涙が溢れてしまったんです。

自分でも気づかないうちに……。

ゴーン……

更に鐘が鳴って、我に返ります。


「か、帰りますっ」

「往生際が悪ぃな」

岳理さんは呆れた様子で笑うと、ボソッと耳元で言った。



「鐘の音で帰るとか、お前はシンデレラか」

鐘の音を聞いて、
石垣の階段を慌てて降りるシンデレラなんて、いません。
< 267 / 574 >

この作品をシェア

pagetop