202号室の、お兄さん☆【完】

私が胸をじんと熱くしていると、さらに皇汰は逃げない新聞の男にボールを投げつけた。

黄土色の汚らしい帽子が空を跳び、慌てて降りた私の足元に舞い降りた。

「うっわ。 新聞紙、逆さまとか益々怪しいっ」

「違うんだよっ 俺は……」

帽子を外せば、硬派な感じの男の人が姿を表した。
無精髭、無造作に伸ばされた黒髪、キリッとした眉毛に、二重のぱっちり瞳。

お兄さんが繊細で綺麗な人だとしたら、この人は日本男児みたいな凛々しい人だ。


「――何が違うだぁ? じゃあそのホームセンターの袋、何入れてるんだよ! 千景さんへのプレゼントか!?」
「こ、皇汰、言ってる事、滅茶苦茶だよ」
新聞の人が戦意が無さそうなのを察して、皇汰はどんどん強気になった。
新聞の人は、ほとほと困った顔をして、ビニール袋を皇汰の目の前に突き出す。

「これは、頼まれた紙鑢だよ」
「紙、鑢……?」

紙鑢なんて、何に使うんだろ? 美術の授業以外で見た事ない。

がうがう吠える、豆柴のような皇汰に、帽子の人が戸惑っていると、私たちの後ろから、声がした。



「岳リン……?」



そう言って、103号室のドアが開いたのだ。
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