202号室の、お兄さん☆【完】

「悪ぃな。くそじじいが何か言ったか?」

階段を登りきると、不機嫌そうな岳理さんが立っていました。

「いーえ」

私がそう言うと、玄理さんを睨みつつも、気が緩んだのか微かに息を吐き出しました。

セクシーに前髪をかきあげると、シャンプーの香りが漂ってきます。



「今日は裸足じゃないんですね」

「……ああ」


そんな短い会話の後、玄理さんが家に入って行ってから、前を歩いていた岳理さんが急に立ち止まりました。









「話が……、ある」


振り返らない岳理さんの背中は、こんなに近いのになんだか遠くて。

今宵の月と同じく、淡く微かに闇夜に浮かび、決して手では届きません。



「はい。私も『花忘荘』の表札を受け取るように言われていたんで……」

そう言い終わらないうちに、岳理さんは振り返り、私を見下ろしました。



「今、鳴海は寝てる。

みかどには黙ってたけど、あいつ」



そう言うと、苦しそうに眉を動かし、首を振りました。






「俺じゃ、駄目なんだ。
みかどを……アイツはみかどを待ってる」



そう言うと、腕を掴まれました。


「隠れて見ていて欲しい」



な、何だかワケが分かりませんが、
私はただただ頷く事しかできませんでした。
 
< 381 / 574 >

この作品をシェア

pagetop