202号室の、お兄さん☆【完】
「悪ぃな。くそじじいが何か言ったか?」
階段を登りきると、不機嫌そうな岳理さんが立っていました。
「いーえ」
私がそう言うと、玄理さんを睨みつつも、気が緩んだのか微かに息を吐き出しました。
セクシーに前髪をかきあげると、シャンプーの香りが漂ってきます。
「今日は裸足じゃないんですね」
「……ああ」
そんな短い会話の後、玄理さんが家に入って行ってから、前を歩いていた岳理さんが急に立ち止まりました。
「話が……、ある」
振り返らない岳理さんの背中は、こんなに近いのになんだか遠くて。
今宵の月と同じく、淡く微かに闇夜に浮かび、決して手では届きません。
「はい。私も『花忘荘』の表札を受け取るように言われていたんで……」
そう言い終わらないうちに、岳理さんは振り返り、私を見下ろしました。
「今、鳴海は寝てる。
みかどには黙ってたけど、あいつ」
そう言うと、苦しそうに眉を動かし、首を振りました。
「俺じゃ、駄目なんだ。
みかどを……アイツはみかどを待ってる」
そう言うと、腕を掴まれました。
「隠れて見ていて欲しい」
な、何だかワケが分かりませんが、
私はただただ頷く事しかできませんでした。