202号室の、お兄さん☆【完】
ガタンガタンと揺れる電車の中、お兄さんは座席に背中をピッタリとくっつけて真っ赤な茹でたこに変身していました。
「日本人が、『日本人』Tシャツを着るって何か変ですよね」
器用に背中を動かさないまま、私の髪を結んでいます。
確かに。
ドラガンさんが着たらおかしくは無いかもですが、日本人Tシャツはインパクトあります。
けれど、2人で笑って、気づいたら照れていた緊張も解けて、いつも通りの会話ができました。
「お兄さん、あの後は眠れましたか?」
「ふぁい!」
口にピンをくわえながらお兄さんは元気よく答えました。
「みかどひゃんはねふれまふたか?」
ピ、ピンをくわえたままでも会話が成り立つとは恐ろしや!
「はい。あ、そうです。千景ちゃんが野菜を植えていましたよ」
「おお!」
「アボカドですが……」
観葉植物みたいに伸びるだけで実はできません。
けれど、いそいそと育てていました。
「花壇は、お兄さんが戻って来た時ように残してますよ」
そう言うと、お兄さんはポロッとピンを落としました。
「早く……戻りたいですね」
そう寂しげにポツリと漏らしました。
大丈夫です。お兄さんならすぐに戻れます。