プラスティック・ラブ
第一章 口は禍の元・・・?

高3の1月ともなれば受験も大詰めで
余裕のない毎日を過ごしているはず、と
思われて当然なのだけれど
年内に推薦で大学への入学を決めてしまった私は
それまでと変わらない年末年始を迎え冬休みを終えた。


センター試験を間近に控え
日に日に顔つきが変わって行く友人達には
何となく申し訳ない思いを抱えつつ・・・
私は残り少なくなった高校生活を静かに過していた。


1月末の学年末考査が終り、2月に入ると
3年生は実質 自主登校になる。
2月に入ると私大の入試が始まり
受験のために入れ替わりで欠席者が出るようになるのと
国公立の受験対策をメインとしたカリキュラムを組むためだ。
だから私のように既に進学が決まった者や就職が決まっている者は
卒業式まで登校しなくても問題はないのだ。


けれど欠席するものはほとんど居ない。
私大や専門学校に進学を決めた者も
就職する者も、結局は毎日登校している。
通い慣れ、少しくたびれた制服とともに
馴染んだこの場所にいられるのは・・・あと少し。
僅かな時間しか残されていないことを名残惜しく思うのは
私だけではないのだろう。


午前中は通常の授業があるものの、午後になると
国公立組とはクラスを別にして選択制での授業になる。
その中に受けたい授業がなければ帰宅も許されている。


今日は私の好きな古典の授業がある日だ。
教科担任の加藤先生は、この時間になると
ちょっと脱線した面白い授業をしてくれるので
もはや入試の心配をしないでいい私は必ず受けるようにしている。
今日の古典はこの教室だ。移動する面倒がなくていいな、と
思っていたところに結那の声が聴こえてきた。


「つきあって欲しいところ、あったんだけどなー」



恨めしげに私のノートをペラペラと捲るのは親友の山下結那(ゆな)。
彼女も第一志望の私大の受験を先日終えた。
やっと解放されたとばかりに
翌日から羽を伸ばしすぎくらいに伸ばしている。
結果が気にならないのかと聞いたら
「いいのよ。落ちたら落ちたで。第二志望には合格してるから」と
本人はいたってお気楽だった。


「モンシュシュのバレンタイン限定のケーキセット、今週いっぱいなんだって」

「そう」

「行こうよ」


私は結那からノートを取り返しながら答えた。



「結那も授業に出れば?終ってからなら付き合うよ?」

「やぁよ、古典なんてキライだもん」

「加藤先生の授業、楽しいわよ?今日は義経と静御前の話だって」

「いくら義経がイイ男でも、古すぎ。
かび臭い男と融通の利かない男には興味ないの」

「はいはい。じゃケーキはまた今度」

「え~~」

「今週いっぱいなら、明日でも明後日でも大丈夫でしょ?」

「やだ~~。今日がいい~~」

「無理」


ため息まじりの返事をして立ち上がった私の背中に
「藤崎」と掛けられた声。
もうすっかり聞き慣れてしまっているのに
やっぱり心臓をドキドキさせる声の持主は成瀬勇人(はやと)。
私のカレシだ。




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