プラスティック・ラブ
それからというもの、私はずっと落ち着かない気持ちのままで
多忙な日を過ごした。
レセプションの参加者名簿に勇人の名前があったからといって
動揺している・・・なんてことはありえない。
これまでだって勇人の名前も、その姿も 目にしなかったわけではないのだから。


昨年、JIA新人賞を受賞したニュースはたまたまネットで見つけた。
そのニュース関連でイタリアでの留学の後、アメリカに渡り建築事務所に所属し
仕事をしていることも知った。元々のルックスの良さに加えて、海外での留学と就職を経て
センスが格段に良くなった彼を日本のマスコミは放ってはおかない。
建築関係の雑誌やテレビ番組でのインタビューは言うまでもなく
多くの女性誌にも取り上げられた。
インタビュー記事にファッションモデルさながらのグラビアページが付いた月刊誌もあった。


けれど、誌面や画面で見聞きする彼の声や姿は、私の知る彼ではなく
タレントや俳優のような遠い世界の別人を見ているような気がしてならなかった。
初めての恋の相手なのに特別な感傷を抱くことが無かったのは自分でも不思議だった。
それはきっと初恋の淡い思いが少しずつ褪せているからだと思っていた。


そう。もう終った事。昔の思い出。



それなのに・・・
日一日とレセプションの日が近づくにつれ
落ち着かない気持ちが膨れ上がる自分に戸惑っている。
それはまるで特別な日を心待ちに指折り数えているような甘い胸騒ぎ。


もしかしたら・・・心待ちにしている?
私が、彼との再会を・・・?


違う。
そうじゃない。



そんなはずはないと、これは旧友と再会する懐かしさであって
それが気持ちを高揚させるのだと、心に言い聞かせたある日の朝のこと。
出社してすぐ、大至急チーフの部屋へ来るように伝言され
着替えもしないまま向った。



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