プラスティック・ラブ

「なっ!」



どうして知っているのか、と
やっぱり気づいていたんだ、という思いが交錯して
私はあからさまにうろたえてしまった。
なぜ、と思わず口をついて出そうになった言葉を
手のひらで押さえて飲み下してみても
こんな反応をすれば口に出したも同然だ。



「・・・図星か」



その酷く落ち着いた雅也の冷たい声に
私は縮み上がった心臓を抱きしめるかのように
両腕を身体に回して自分を抱き、固く眼を閉じて唇を噛んだ。


その刹那、突然私の肩を掴んだ雅也にベッドへと押し倒されて
彼の身体の下に組み敷かれた。
両手を強く押さえつけられて身動きができない。


「雅也?!」

「こんなふうに 夜中にアイツと会ってたのか?」

「違う!そんなことしてない」

「どうだかな」

「本当よ!こんなこと今日が初めてなのよ」

「・・・初めて、ねえ」



私の手を押さえつけている雅也の手の力が
痛いと感じるほど強くなった。


「お前な、真夜中に男の部屋で二人になる意味、わかってるのか?」

「・・・・・・」

「おい!」

「・・・わかってる」


私は小さく絞り出すように答えて、顔を背けた。
それを許さないとでもいうように
雅也は強い力で私の顎を掴み引き戻した。



「わかってて、行くつもりだったのか!」

「・・・・・・」

「どうなんだ!」


これまで見たことがないような鋭く厳しい視線が
私を射抜いていた。でも どうしてだろう。
その視線から逃れたいとも 怖いとも思わなかった。
心はしんと静まり返った湖のように穏やかで
雅也の視線から目を逸らさず真っ向から見つめ返せているのが不思議だった。
それはきっと 彩夏と私の名を甘やかに呼んだ成瀬の声が
私を愛しているのだと切なく告げた彼の声が体中に響いていたから。
成瀬の私への思いが 私を強くしたのだ。


「そうよ! 分かってて・・・全部分かってて・・・それでも行くつもりだった。
行きたいと思ったの!彼が来てくれって。私を待ってるの!」

「彼、なんて言うな」

「お願い。離して。・・・ん?!」



雅也の唇がいきなり乱暴に重ねられた。
私は顔を思い切り背けそれを振り払った。



「やめて!お願い」

「行かせへん」

「いや!放して」

「どこへも行かせへん」

「放して!お願いっ」

「嫌や!お前は俺のもんや!」



布が裂ける音がしてボタンが弾け飛んだ。
シャツの胸元が無理やりに開かれたのがわかる。



「いやぁ!やめて!」



私の抗いを封じるかのように唇が重ねられた。
噛み付くような甘さの欠片もない荒々しい口づけは
蹂躙としかいいようがなくて
まるで雅也ではない別の人に襲われているような恐怖が全身に走った。


知らない。こんな雅也を私は知らない。
怖い――――と初めて思った。
雅也に対して恐怖感を抱くなんて初めてだった。


「・・・っ」


ようやく離された唇が今度は首筋を痛いほど吸い上げ
両手は露になった胸元を荒々しくまさぐった。
雅也の体全体で伸し掛かるように押さえつけられているので
もがくことすらできない。動かせるのは放された両手だけだ。


「いやっ・・・お願い、やめて」


その両手で彼の肩を力いっぱい押し上げてもびくともしない。
雅也はそんな私の抵抗など全く構いもせず
胸元をまさぐっていた両手で、スカートをたくし上げて
ストッキングを引き裂き下着をむしり取った。



「いやぁぁ!」




身体の動かせるところは全て動かして必死の抗いを試みても
男の本気の力に女が敵うわけがない。
小さく忙しない金属音でベルトを外したのが分かる。



「やめて!」



雅也、どうして?



「お願い!やめて!」



力ずくの冒涜など軽蔑こそすれ 許す人ではなかったのに。
どうしてなの?雅也。こんなのは嫌。やめてよ。やめて。



「嫌!やめてっ・・・いやぁぁぁ」




膝の裏を抱え上げられて私は思わず絶叫した。




「助けて!・・・成瀬くん!!」


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