プラスティック・ラブ

熱いシャワーでは落としきれない澱を
心に抱えたままバスルームから戻ると
良い香りのするお茶が差し出された。
ありがとうと受け取り、一口啜ってほぅと息を吐いた。



「落ち着いたか?」と気遣う成瀬に微笑みで答え
テーブルへとカップを戻すと
背中から包み込むように抱きしめられた。



「ごめん。辛い思いをさせた」




ゆるゆると左右に振った首の後ろに成瀬の唇がかすかに触れた。
ぴくりと力が入ってしまった身体を彼は一層強く抱きしめた。


「違うの。辛いのは私じゃなくて・・・」

「わかってる。言うな」

「うん」



私の腰を抱いていた成瀬の左手が私のバスローブの紐を引き、解いた。



「こんな時にと、呆れるか?」



彼の利き手は開いたローブの合わせ目には触れずに
私の手の甲から指を絡ませると、しっかりと握った。



「呆れられてもいい。 君を今、俺のものにしたいんだ」



答えるかわりに成瀬に握られた手を持ち上げて
絡む彼の指先にキスをした。
耳元で「彩夏」と熱く艶かしく囁かれて
私は眼を閉じて力の抜けた背中を彼の胸に預けた。



「いいのか?」



私こそ呆れられてしまうかもしれない。
雅也とあんなふうに別れたばかりだというのに。
けれど・・・
今、私を包むこの温もりを、この腕を振り払うことはできない。
雅也の愛に背いてまでも欲しいと思ったものだから。



「成瀬くん・・・」

「ん?」

「好き」



やっと言えた。
卒業式の前日に成瀬に封じられたままの思いを
今やっと伝えることができた。 



「彩夏」



彼に抱き上げられて静かに下ろされたベッドの上で
泣きたくなるほど優しい触れるだけのキスが
頬に瞼に唇に何度も何度も落とされたその後は・・・
「もう離さない」と囁く成瀬の熱情に
わけが分からなくなるほどに翻弄された。


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