☆マリッジ☆リングス☆
「気をつけて帰るんだよ。」

「はい・・・」

さゆりは久保にタクシーに乗せられ、最寄駅まで帰った。

「また・・・冷めていく・・・」数分前まで久保が温めてくれた手も

みるみるうちに指先から冷えていった。

「もうすぐ年末ね・・・」

車中に流れるラジオからそんな話題が聞こえた。

「ただいま」

「ママーー」

せいは母と一緒に、もちを食べている。

「せいちゃん。おもち食べてるわ~好きなのかしらね。」

母は、あんこやきなこをもちに混ぜては、せいとワイワイとやっていたらしい。

「あの・・・お母さん、聡さん。好きな人ができたんだって・・・」

さゆりは唐突にそんな台詞を吐いてしまった。

「え?なんて?」

母は、ワイワイ、からまだその台詞が耳に入ってこない様子だったが

「離婚したいって」・・・

「離婚?聡さんが?」

「うん・・・」

「離婚」って文字にハッと我に返った母は、作業も止めてテーブルに座った。

「離婚って・・・本当なの?」

「うん。私言われたもん。離婚してくださいって。」

「まぁ・・・」

「私は、離婚したくない。子供のためにも。」

「そうだけど・・・」母は根っからんせっかちな性格だったからさゆりは心配だった。

「とにかく・・・せいちゃんは渡しちゃダメよ。」

そんなことを言い出すと

荷物をまとめだした。

「何、グズグズしてんのよ。」

「来なさい。うち」

そう言いながらも母は止まらなかった。

「待って、お母さん・・・」せいが察するのが怖かったさゆりは母を説得したが

「せいちゃんは私が面倒見ますから。」って断固として荷物をまとめ始めた。

さゆりはどうにもこうにも母が止められず

結局、自分も荷物をまとめていた。

リビングのテーブルには

さっきまでおもちでワイワイ騒いでいたはずが・・・

あんこもきなこもそのまんま・・・

箸にはもちがベットリ付いていた。

さゆりとさゆりの母

そして、せい。

3人は、この家からあっという間に消えた。

「実家に帰ります」そう置手紙を残して・・・



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