二重人格三重唱
 「此処で縁切りだ。陽子さんとも翼とも」

振り返った翔が言った。


「やっぱり翼がいるのね」

身構えながら陽子が言う。


「ああいるよ。ずっと前から気付いてた。摩耶に会いたいのに、隣にいたのはあんただ! 恨んだよ!」


「だからあんなに疲れていたのね? あなたを負かして会いに来たがら」


「それに気付くと線路を見てる」

陽子はピンときた。


(きっと秘密基地だ)

翔の中にいても翼は翼だった。その時陽子は、翼の強い愛に支えられた日々を思い出した。


「俺が何故此処を選んだと思う?」
陽子は首を振った。


「あんたら全員を抹殺する為だ。憑依だが何だか知らないが、俺の体を玩具にしやがって!」

翔はサバイバルナイフを構えた。


陽子は思わずお腹の子供を庇っていた。
自分の子供だと翼は言う。

でも今、翼は居ない。


(そうだ! この子を守れるのは私だけだ!)

陽子はお腹を隠すように身構えた。


「お前が憎い! 翼を変えたお前が憎い! 努力もしないで出来る奴を焚きつけやがって!」

翔が喚いている。


「翼が何もしないで受かったと思っているの!?」

陽子の脳裏に狂ったように勉強する翼が浮かんだ。


「あなたのお母さんに母親を殺されて! お父さんに私がこんな目に遭わされて! 翼がどんなに苦しんだか! あなたに分かる!?」

陽子は泣きながら本当は優しい筈の翔に問いかけた。

翔は一瞬怯んだ。


「お袋が翼のお袋を? 一体どういうことだ?」


「田中恵さんに聞いたの。薫さんとお義父さんは高校生の時から付き合っていたって」


「ほらやっぱり翼のお袋が浮気相手じゃないか!」
翔はいきり立った。





< 139 / 147 >

この作品をシェア

pagetop