二重人格三重唱
夜祭りデート
 十二月三日。
秩父夜祭りの日だった。

この日二人は二度めのデートとしてSLを選んだ。


二人が初めて出逢った日の夕方、三峰口駅のホームから見えるSLの転車場で『いつか翼君と乗ってみたいな』と陽子は呟いた。


その思いを翼に打ち明けたのだった。


二十歳だと言っても、陽子だって女の子。
幾ら何でも告白することは気恥ずかしい。
だけど、素直になろうと思ったのだった。


陽子はそれほど翼と出逢えたことが嬉かったのだ。




 以前SLは勤労感謝の日が運転最終日だった。

それを秩父最大のメインイベント・秩父夜祭りの日までずらせたのだった。


二人はそれぞれの最寄りの駅から、フリー切符を購入して羽生行きの電車に乗り込んだ。

電車が御花畑駅に入って来る。

待ち合わせは最後尾の車両だった。


浦山口駅・影森駅。
陽子は駅に着く度失敗したと思い込む。

一番手前の車両なら、駅で待っている翼をすぐに発見出来たはず。

陽子は心配になって、何度も何度も立ち上がった。

一駅近付く毎に陽子の鼓動が早くなる。
胸が張り裂けそうになる。

陽子は翼との再会を待ちながら、存在がどんどん大きくなる喜びを感じていた。


(間違いない!)

ギャグをかました訳ではない。
陽子の心は喜びに溢れていた。


(間違いない! コレが恋なんだ! コレが恋って言うものなんだ!)

陽子はもう一度立ち上がって、ドアに向かった。


でもお花畑駅はまだまだ遠かった。
そして今後はドアに近い場所に座り直した。


(やだー、私何やってるんだろ?)

陽子は笑いながら、大きな溜め息をついた。


陽子は嬉しくてたまらなかったのだ。


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