二重人格三重唱
 翼は待ち合わせの一時間位前から御花畑駅にいた。

家でじっと待っていることなんて出来なかったのだ。


でも何もすることがなく、翼は自分をもて余していた。


しょうがないのでベンチに座っていると様々な思い出がよみがえってくる。
翼は改めて、陽子と出逢えた軌跡に感謝した。




 此処に来るまでに翼は、近くの神社の鳥居越しに柏手を打っていた。

鎮守の杜とでも言うのだろうか?
子供の頃から慣れ親しんだ神社で、二人の再会をひたすら願う翼だった。


そのすぐ脇にある坂道を上って行く。


小さな小さな路地。

車か一台通るか通れないような道。
その道にも駐車場がある。

比較的大きな屋根は、宗教団体の協会。


翼はこの道が小さい頃から大好きだった。


どんどん坂道を上がって行く。

行き着いた場所では線路が見えた。


翼は此処でも、武州中川駅方面に向かって柏手を打った。


陽子と無事に逢えることをひたすら願って。


日々形が変わって行く雄大なる武甲山。


翼は目に映る物全てに祈りを捧げた。




 それでも早目に着いてしまった翼だった。


翼は影森駅方面の線路に目をやり溜め息を吐く。

時の流れが遅すぎる。

翼はイライラしながら、陽子がプレゼントしてくれたダイバーウォッチを見ていた。



< 36 / 147 >

この作品をシェア

pagetop