お茶の香りのパイロット
会場にダンス曲が流れ始めると、場内にざわめきが起こり、あっという間にそれぞれのパートナーと手をとりあうシーンがあちこちに見受けられた。

フィアもマーティーが現れる前にカイウとこの場を抜け出そうとしたが、出口の前でマーティーと出くわすことになってしまった。


「お待たせしたね。迎えにきてくれたのかい、うれしいね。
じゃ、レディ、レッスンを始めようか。」


みんなが注目する中、恐る恐る出された手をとるしかないフィアだったが踊ってみると、女性を扱うことに手馴れているのかとても動きいいことに驚いた。


「フィアは飲みこみが速いね。十分、僕のパートナーとしてはずかしくないよ。」

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「そ、そうですか・・・先生の教えがいいからですよ。」



「で、君の協力者からはなんて言われたのかな?
僕と2人っきりになってはいけないとか、何か口にしてはいけないとかかな?」


「えっ・・・な、なんのことです?」


「僕はアルミスには好かれていないからね。
資金提供だってお金の必要にせまられて仕方なく受け入れたんだろう?
だから、何か裏があるって思ってる。

でもね、僕だって今の世界の情勢はアルミスよりよくわかっているつもりなんだ。
工業製品会社が軍事産業と変わらないビジネスなんてできればやりたくない。

僕の父なら、何でも儲かればいいと言うだろうが、僕はもっとこだわりと理想があるからね。」


「こだわりと理想・・・ですか?」


「僕は仕事を始めてからときどき、父母の実子ではないのではないか?ってマスコミに書かれたことがある。
本家の長男なのにね、笑えるだろ。
その逆だったらよくある話だったのかもしれないが、僕は実の親の子でありながら実の親とほとんど会うことなく育った。

父は儲け一筋だったし、仕事の虫の夫に嫌気がさした母は買い物やギャンブルに飽きれば外国を旅してまわって行きずりの恋を楽しんだりしていたよ。

それでも、僕がこうやって会社を担っていける人間でいられるのは、乳母や優秀な使用人たちのおかげなんだけどね、妹はすぐに軍に入ってしまって、男になりたがった。」



「どうしてそんな話を私にするんですか?」


「妹の力になってほしいと思ってね。
ディーナが乗る機体はフォアード担当で最前線だときいた。
なのに妹はやる気がありすぎるというか、妙にはりきっていたからおかしいと思ったんだが。

どうやら以前会ったことのアルミスに好意を持っていたみたいでね。
最近の彼の写真を誰かに送ってもらって、ますます彼に憧れていたところに今度の話だった。」


「以前にアルミスと会ったことがあるんですか。」


「うん。アルミスのお姉さんが生きていた頃にね・・・。
僕は彼のお姉さんと少しの間、恋人としてつきあっていたことがあるんだ。」


「アルミスのお姉さんと・・・お付き合いを・・・。
亡くなられたときも?」


「いや、亡くなる1年前には終わってた。
僕が彼女を友人に紹介というか譲ってしまった形にしたから・・・。」


「彼女を譲るですって!」


「そう、品物みたいに扱うなって思うだろ?
でも、当時の僕は父親の羽振りが良かった分だけ余計なことで追われて、書かれて、彼女に心配と苦痛しか与えられなかった。
会ってもいつも泣いてた彼女にどうすることもしてやれなくて、友人に彼女をなぐさめてくれるように頼んで僕は外国に逃げたんだ。

彼女は王女様だから、それまでのマスコミでの僕の所業に頭にきて僕を捨てた、僕から逃げてきたって言い訳が通用したからね。」



「アルミスはあなたがお姉さんを捨てたと思ってるんですね。」

「たぶんね。
正直、僕も若かったから女性を心から愛するってことがわからなかったんだと思う。

彼女への愛はあやふやのままだったけれど、戦争のとばっちりで亡くなったと知ったときはすごく悲しかったよ。
生きていて、何十年かしたら当時の気持ちを話したいと思っていたのに、もうできないんだからね。」


「資金提供してくださった理由はそういうことなわけですね。」


「うん。アルミスは別の罪滅ぼしだと思ってるかもしれないけど、それでもいいんだ。
無法地帯になっているところを静められるのはアルミスを頭にしている君たちだと思うから。

ただ、兄として・・・もしアルミスが僕に対する不満を妹にぶつけないかと心配でね。
ディーナは積極的な行動をすると思うが、心はけっこうナイーブな娘なんだ。
本気で恋したことはないし、失恋したこともない。

男まさりで女性どうしの会話ができる友人も少なくてね。
だから、フィア・・・君にディーナのいい友達になってほしいんだ。」


「えっ・・・私がですか?でも・・・」


「アルミスは渡したくないかい?」
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