世界で一番、ずるい恋。




「なー、茜」

「何でございましょう、律さん」




さっきのダメージを若干引きずりながらも、呼び込み用の看板を手に取りながら聞き返す。




「律呼び、慣れてきたみたいだな」




それを無言で差し出して " 持って " とアピールしてみたけど、完全に無視された。

……チラシは持ってないし、看板も持たないとなると、本当に何しに来たの。




「名字で呼んだら威嚇されるから慣れるしかないじゃない」




自分が思ってるよりも、何百倍も怖い人だって分かってないよね。




「……そう、だよな」




そう呟くと、律は『ごめん』と付け足した。



その声は酷く寂しそうだけど、私には理由なんて分からない。





「ごめん、とか律ってそういう言葉、ほんと似合わないよね」





だったらきっと、ここは気付かないフリをするのが正解なんだろうって思ったから私は出来るだけ明るく振る舞う。







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