不純に愛して 素直に抱かれて

Side men



それから半年ほど経ったある日のことだった。


果乃子が結婚するとの報告を受けたのは。



……女ってのは怖いな。
ほんの数ヶ月前まで俺に縋って泣いてたのはなんだったんだ、なんて。

そんな事を思う資格さえない自分に苦笑する。



「おめでとう。随分急だね、驚いたよ」

「ありがとうございます。先方が気に入って下さって、早く式を挙げたいと。後で招待状を送ります、ぜひ都築課長もいらして下さいね」


給湯室で偶然会った果乃子は無理をするでもなく笑ってそう言った。

他の社員が部屋から出て行きふたりきりになったのを見計らって、俺は果乃子に一歩近づいた。


「俺が行っても、いいの?」


嫉妬、なのか。何故そんな意地悪な事を言ったのか自分でも分からない。

けれど果乃子は。


「もちろんです。私に男性を愛する悦びを教えて下さったのは都築さんじゃありませんか。それがこうして新しい幸せに結びついたんですから、感謝しています」


俺が望む以上の従順で賢い答えを用意していた。


なのに何故だろうな。

「…そいつは光栄だな」

俺はたまらなく煙草に火を着けたくなった。


「お幸せに」

俺の形ばかりの祝福の言葉に、果乃子はニッコリと微笑んで嬉しそうに給湯室を去って行った。


推し量れない彼女の本心にしばし思考を燻らせる。

そういえば果乃子は強がりの得意な女だった。そう思いたい。

けれど。

『私、都築さんの前では素直です。唯一、素直な女でいられるんです』

涙を見せながら言ったあの台詞と。どちらが今の果乃子の本心かなんて。


どちらにしても。
彼女の心がもう俺にはない事は確かで、柔らかく突きつけられたその事実に何故だろう胸が疼く。


果乃子は不倫に向いている女だと思っていたが……賢すぎるのも考え物だな。


給湯室を出た俺は喫煙所まで待ちきれず、ポケットから出した煙草を咥えながら廊下を歩いた。






fin


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