それでも、課長が好きなんです!
 瞬きを忘れ、見開いた瞳でじっと目の前の人物を見つめているとばちっと正面から目が合う。
 はじめて会った時と同じ気の強そうな瞳がじっとわたしを見据え、口元には自信に満ちた笑みを浮かべる。
 鼓動が次第に高鳴るわけではなく、一気に胸が痛むほどに苦しくなった。

「さ、さっき彼女と別れたって……」
「あぁ」

 一度頷くと瞳を伏せ、自信のある笑顔とは正反対の寂しげな笑顔を見せた。

「恋心なんてさ、いいかげんだよな」
 
 先ほどの佑輔君の「人の心って、なんて簡単なんだろう。……簡単に、移り変わるんだ」の言葉が頭に思い浮かぶ。

「でも、変わるもんなんだよ。だから千明もさっさとこてんぱんに振られて来いよ」
「……なっ」
「今度は俺が抱きしめてやるよ」
「えぇっ!」
「スタート地点に立てば振り向かせる自信あんだよ」
「な、ななな……」

 これは夢か幻か。
 今わたし柏木佑輔に口説かれている……!?

「か、からかって……」
「はじめて会った時から気になってた。見た目も、性格も全部ツボ。好きだよ」

「アイツのとこから戻ってきたら改めて言う」

 顔が熱い。
 頭がぼうっとする。
 胸に当てた手が、無意識に苦しいほどに高鳴る胸をぎゅっと握りしめていた。

「も、戻ってきたらって……?」
「今からアイツんとこ行こう」
「は……」
「家の場所、知ってんだろ?」

 腕を引き上げられ立ち上がったが、足に力が入らなくてうまく立てない。

「それにもう一度振られて来いって言ったのは、千明のためでもある」

 息を飲み込み、ゆっくりと佑輔君を見上げた。
 目を合わせると少し神妙な面持ちが次第に緩み、小さくほほ笑んだ。

「いつまで振られた男のこと想ってイジイジしてんだよ」

 「あ……」と小さく声が漏れ、その後は何も言えなかった。
 今まで二十数年間生きてきて、ここまで失恋を引きずったことがあっただろうか。
 今まではやがて訪れる新しい恋が、失恋もいい思い出に変えてくれるとそう思っていた。
 今回も、時間が経てば忘れられるものだと思っていた。
 それなのに、全然気持ちの整理がつかない。
 どうしてだろう、どうしてここまで穂積さんのことが……

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