【完】君ノート



お父さんは、机のある部屋に連れてきて俺を椅子に座らせると、

向かいの椅子に腰掛けた。



そして、口を開く。




「あの子は、俺がここに来たときには、もうあんな状態だった。

近所の方が気づいてくれてな、俺に電話してくれて、助かったよ。

少し、手遅れになってしまったかもしれないけど……」



お父さんはそう言うと、うつむういた。





手遅れ……?


なにが……手遅れなんだ?





「帰ってきてから、花音の声を、まだ一度も聞いていない」




「えっ……?」







「あの子はたぶん、また声を失った」










───────……。



その瞬間。




何かが壊れる、音がした。






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