助手席にピアス

「あきらめません! 続けます!」

「そうか。わかった」

桜田さんは私の返事に頷くと、ホースで水を流しながらデッキブラシで床を擦り出した。

自分の尻拭いさえも忘れるほど、気持ちが落ちていたなんて……。

桜田さんのもとに急いで向かう。

「ごめんなさい。掃除なら私がします」

「いや、気にするな。お前はスポンジづくりに集中しろ」

「……はい」

やはり桜田さんは優しい。

桜田さんの気遣いを無駄にしないためにも気持ちを切り替えると、もう一度粉の計量を済ませ、ふるいにかける。そして、ミキシングしていた卵に粉とバターを混ぜ合わせた。

ここまでくれば、あとはオーブンで焼くだけだ。

あらかじめ余熱していたオーブンに、生地を流し込んだ型を入れるとスイッチをONにする。

ほぅと息を吐き出すと、使った調理器具の後片づけに取りかかる。しばらくして厨房に漂い始めた甘い香りに心躍らせながら、スポンジケーキが上手く焼けることを心の中で祈った。



こんがりときつね色に焼けたスポンジケーキをオーブンから取り出し、型から外す。膨らんだスポンジが焼き縮みを起こすこともなく、なんとか成功したかのように思えたけれど……。

冷えたスポンジケーキを切り分けて試食をしてみると、なんともモソモソして口どけが悪い。

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