助手席にピアス
「まずはスポンジを焼いてみろ」という桜田さんの指令が下ったのは、昼食を終えた後のこと。
製菓専門学校で習ったことを思い出しながら、材料を用意し計量を済ませた。次に卵をボールに割り入れると、泡だて器でときほぐし、砂糖を加え湯せんにあてる。そして、ひと肌まで温まったら、製菓ミキサーで泡立て開始。
製菓学校では流れるように作業していたことも、今は思うようにはかどらない。そのことに歯痒さを感じながら、次の作業を頭に思い浮かべようとした時、桜田さんの姿が視界に映りこむ。
厨房の隅で、たどたどしい私の一連の作業を見つめる桜田さんの真剣なまなざしに、心臓がドキリと音を立てた。
「あっ!」
桜田さんの視線を意識した途端、緊張のあまり計量済みの粉を床にばら撒いてしまった。厨房の床は、まるで粉雪が降り積もったよう。
やはり、こんな私が朔ちゃんのウエディングケーキ作りを手伝なんて、無謀すぎるんだ……。
一気に気持ちが萎えてしまい、鼻の奥がツンと痛み出す。
「おい、あきらめるか?」
桜田さんの冷静な言葉通り、このままあきらめるのが私にとって一番楽な選択。
だけど、朔ちゃんと莉緒さん。そして琥太郎の期待に応えるためには、ここであきらめるわけにはいかない!