助手席にピアス
琥太郎が小さくチッと舌打ちをする音を、私は聞き逃さなかった。
「うるさいとはなによ。女の子にとってクリスマスイヴは特別な日なんだよ! そんなこともわからないの!?」
ここがガトー・桜の店内だということが、頭からスポンと抜け落ちてしまう。
「そ、そんなことくらいわかってるっつーの! だからこうして半休取って、車を飛ばして来たんだろ!」
つい熱くなり、声を張りあげて言い争いをしていると「なにを騒いでいる?」と桜田さんが厨房から姿を現した。
私に見せた反抗的な態度から一転……。
琥太郎は「あ、無理言ってすみませんでした」と、桜田さんが差し出したケーキの箱を受け取った。
ペコペコと頭を下げる琥太郎の様子を目にした私は、ようやくすべてを理解する。
「あっ、そうか! ねえ、琥太郎。彼女においしいケーキを食べさせたくて、わざわざ桜田さんのケーキを注文したんだ?」
琥太郎が半休を取って車を飛ばして来たのは、彼女を喜ばせるため。
ちっとも彼女のことを語りたがらない琥太郎が、実は一途に彼女のことを思っていると知った。けれど、それも束の間。
「あ? ったく……相変わらず雛は鈍感だな。ちょっとこっち来いよ」
「え? こっちって、琥太郎?」