助手席にピアス
着信音が鳴るポケットへ反射的に手が伸びてしまった私が握りしめたのは、琥太郎のスマートフォン。画面には“真由香”という文字が表示されていた。
「琥太郎、はい」
平静を装いながら、琥太郎にスマートフォンを手渡す。すると琥太郎は「あっ」と短く呟いたきり、その着信に出ようとはしなかった。
そう。琥太郎には彼女がいる。クリスマスイヴの特別な日にサプライズする相手は、私じゃないよ……。
私は冷たい空気と共に、強がりを吐き出す。
「琥太郎。早く出ないと切れちゃうよ」
「あ、ああ……もしもし」
琥太郎が、彼女となにを話しているのかなんて聞きたくない。
琥太郎が、私以外の女の子と話をしている姿なんて見たくない。
琥太郎の前から逃げ出した私は、一目散にガトー・桜に戻った。
もう、琥太郎のことなんか考えないんだから……。
自分にそう言い聞かせると、途中だった掃除を始める。
「おい、琥太郎くんは?」
厨房から顔を出した桜田さんに向かって、八つあたり気味に返事をする。
「琥太郎なら彼女と話中です」
琥太郎が珍しく『雛をひとりで過ごさせるわけにはいかないだろ』と甘い言葉を口にしたから……。
どんな特別な日になるんだろうって、変に期待しちゃったじゃない。