助手席にピアス
幼なじみの琥太郎を異性として初めて意識してしまった私は、恥ずかしさを誤魔化すためにモップかけに精を出す。すると、ひんやりとした空気を巻き込みながら、琥太郎が店内に入ってきた。
「雛、ごめん。俺帰るわ。あのさ、正月には戻ってくるんだろ?」
「そのつもりだけど」
「その時までに俺、ケジメをつけるから。だからさ……」
突然、私の前に現れ、そしてまた突然、私の前から立ち去ろうとしている。
琥太郎がどうして、そのような行動を取るのか、私になにを伝えようとしているのか、全く理解できなかった。
「琥太郎の言っている意味がわかんない」
「雛、俺は……」
もう、頭の中がグチャグチャだ。今、琥太郎になにを言われても平静を保てないよ……。
「琥太郎。もう幼なじみの私の心配なんかしなくていいから。彼女と仲良くね」
「おい! 雛!」
借りていたモッズコートを脱ぎ、琥太郎の胸に手荒く突き返す。そして私を引き留める琥太郎の声を無視して厨房に駆け込んだ。
本当は彼女と仲良くして欲しいなんて、一ミリも思っていないのに……。
今の私は幼なじみの琥太郎の前で、どうしても素直になれなかった。その場に膝から崩れ落ちると同時に、瞳から涙が溢れ出てくる。