助手席にピアス

「雛子ちゃん、真澄は厳しいでしょ?」

「うん。でも自分にも厳しい人だから、注意されても素直に受け入れられる」

「へえ。この様子だと、どんなウエディングケーキができあがるのか楽しみだな」

単純な私は、朔ちゃんの笑顔を見ただけでモチベーションが上がってしまうのだ。

「うん、期待していて! それでね、朔ちゃんは桜田さんと同じ高校だったんでしょ?」

「真澄から聞いたの?」

「うん。ねえ、桜田さんってどんな学生だったの?」

朔ちゃんは、私が知らない昔の桜田さんを知っている。興味をそそられた私は、瞳を輝かせながら朔ちゃんに詰め寄った。

「……真澄は生徒会副会長を務めるほど、頭がよくて活発だったよ」

「え、嘘! 今ではあんなに口数が少ないのに?」

高校時代の桜田さんは、クールでひとりを好む一匹狼タイプ。そう想像していたのに……。

朔ちゃんの予想外の話に驚く。

「嘘じゃないよ。僕は会長を務めていたから、自然と仲良くなってさ。真澄が変わったのはきっとあの出来事のせいだと思う」

「あの出来事?」

穏やかな朔ちゃんの表情が、見る見るうちに曇り出す。

「ごめん。雛子ちゃん。ここまで話しておきながら、これ以上は僕の口からは言えないんだ」

「そ、そうなんだ……」

朔ちゃんの苦しそうな表情を目にした私は、それ以上なにも言えなくて……。

ただ黙って、雑炊を口に運んだ。

< 147 / 249 >

この作品をシェア

pagetop