助手席にピアス
「雛?」
数回のコール音の後に耳に飛び込んできのは、琥太郎の声。慣れ親しんだ声を聞いただけで、胸が張り裂けるような痛みを感じ、涙がポロポロと頬を伝った。
「琥太郎ぉ……」
キスで目覚めた白雪姫は、王子様と結ばれる。けれど、この期に及んで琥太郎への思いを桜田さんのキスで自覚してしまった私は、どうしてもっと早く自分の気持ちに気づかなかったのかと後悔をした。
「おい、雛!? なにかあったのか?」
焦る琥太郎の声を聞いたら、ますます涙が込み上げてきてしまった。
「胸が……胸が苦しいの」
「きゅ、救急車を呼べ! 自分で呼べるか? 110番に電話しろっ!」
恋する乙女の気分に浸って、涙を流していたのに……。
思い切り勘違いをしている琥太郎がおかしくて、小さく笑いが込み上げてきた。
「琥太郎、110番は警察だよ。救急車は119番」
「そ、そうか。なら119番だ!って……雛? 随分冷静だな? 胸が苦しいんじゃないのかよ?」
瞳から零れ落ちた涙を拭いながら、琥太郎自分の思いを素直に伝える。
「うん。苦しいよ。琥太郎のことを考えると、胸が苦しくなる」
「あのな……勘違いするようなことを彼氏以外の男に気安く言うんじゃねえよ」
琥太郎の言葉はあまりにも素気なくて、つい声が大きくなってしまう。