助手席にピアス

もし私が元カレの亮介にフラれて仕事を辞めようかなと、弱気にならなければ、朔ちゃんがガトー・桜に訪れることはなかったはず。

親友だった朔ちゃんと桜田さんが、時を経てまた親友に戻れたのなら、私の失恋も無駄ではなかったのかなと、今になってそう思えた。

そして私も、失恋をして気づいたことがある。遠くにいながら、東京にいる私のことをいつも心配してくれている琥太郎は、もう私にとって幼なじみ以上の存在だ。

そのことを今度こそ、桜田さんに伝えなければならない。

「桜田さん。私、自分の気持ちにやっと気づいたんです。私はもう、桜田さんの彼女ではいられない。ごめんなさい」

照れ屋なところや、さりげない優しさを垣間見せるところなど、桜田さんと琥太郎の共通点は多い。

だからこそ、桜田さんに惹かれたのかもしれない……。

ようやく今になって、自分の気持ちに気づいた。

「お前と厨房に立ってケーキを作っていると、まるで早百合と一緒にいるような気分になって楽しかった。俺はお前に早百合を重ねていたんだ。俺の方こそ悪いことをした。すまない」

私は桜田さんに琥太郎を重ね、桜田さんは私に早百合さんを重ねていた……。

寂しさを抱えながらお互いがお互いを求め合った日々に静かに蓋をすると、胸の奥深くにしまい込むことにした。

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