助手席にピアス
「迷惑じゃないよ。それであっちに帰る時間だけど、今日の午後になりそうなんだけど、大丈夫かな?」
朔ちゃんは大手証券会社に勤めている。
午後になりそうって……午前中は仕事をして、半休を取るってことだよね……。
「私は大丈夫だけど、こんなことで会社を休んで、朔ちゃんは平気なの?」
幼なじみの祖母といえば他人も同然だ。それなのに朔ちゃんは迷いなく私を叱った。
「雛子ちゃん。“こんなこと”なんて言ったら、おばあさんが悲しむよ」
「……ごめんなさい」
久しぶりに話を交わした朔ちゃんは昔と変わらず、優しくて、厳しい。
「うん。それで悪いんだけど僕が勤めている会社の近くまで来てくれたら、手っ取り早いと思ってさ」
「朔ちゃんの会社の最寄り駅って確か、霞ヶ原だよね?」
「ああ。十三時に霞ヶ原の南口で待ち合わせしようか?」
琥太郎と話す時は、小さな言い争いをしてしまうことが多い。けれど朔ちゃんとは、順調に話が進んでいく。
「うん。朔ちゃん、ありがとう」
「いいえ。どういたしまして」
無事に約束を交わすと、通話を切る。
朔ちゃんの声を聞くと、安心するな……。
慌ただしい朝の中で唯一ホッとできる時間を過ごした私は、荷造りの準備に再び取りかかった。