助手席にピアス
霞ヶ谷の駅に降り立つと、待ち合わせした南口に移動する。キャリーケースをゴロゴロと転がてキョロキョロと辺りを見回すと、懐かしい朔ちゃんの姿を発見した。
「朔ちゃん!」
サラリーマンらしい清潔感のある黒い短髪と、ブラックスーツ姿はの朔ちゃんからは大人の落ち着きと色気が滲み出ているような気がする。
朔ちゃんはブンブンと高く手を掲げて左右に振る私を見ると、二重の瞳を細めて優しく微笑んだ。
久しぶりに会った朔ちゃんを観察するように見つめていると、いつの間にか横に並ばれる。
「雛子ちゃん、久しぶり。荷物はこれだけ?」
「うん。そう」
朔ちゃんは右手でキャリーケースを持つと、左手を私の腰に添える。
「この先の駐車場に車を停めているんだ」
「そうなんだ」
「ああ。じゃあ、行こうか」
「うん」
朔ちゃんのスマートなエスコートに従い足を進めると、すぐに駐車場にたどり着く。紺色の車のキーを解除すると、朔ちゃんは私のキャリーケースをトランクに軽々としまい込んだ。
そして、そよ風のように優雅に助手席に回り込むと、ドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
その態度は、さながらホストか執事か、と見紛うほど。どちらにしても、すっかりいい気分になった私は、ほんの一瞬だけのお嬢様気分に浸った。