助手席にピアス
そう思いながら、焼き上がった帆立をお上品に口に入れた。けれど、あまりのおいしさに、またもテンションが上がってしまった。
「ん~! おいしい! 幸せ!」
「よかった。雛子ちゃん。これで少しは元気になった?」
朔ちゃんにデートに誘われた時『元気?』と、尋ねられた私は『元気じゃないの』と、答えたことを思い出す。
本当は亮介のことを口にするのは、今でも胸が痛む。でも心配をかけてしまった朔ちゃんには、きちんと話さなくちゃいけないよね。
「朔ちゃん。あのね、私……彼氏にフラれちゃったの」
「うん。知っている。実は琥太郎から、雛子ちゃんが弱っているから慰めてやって欲しいって、連絡があったんだ」
「えっ?」
驚きのあまり、次に食べようと思って箸で掴んでいたフィレステーキが、お皿の上にポトリと落ちた。
朔ちゃんが、私をデートに誘ってくれた理由がわかり、そして喧嘩をしたのにもかかわらず、琥太郎が私を心配してくれていたなんて……。
ジワジワと喜びが湧き上がる。
「雛子ちゃん、琥太郎から伝言。肉でも食って元気だせ、だってさ。あ、ちなみに雛子ちゃんの食事代は琥太郎のおごりだから。遠慮しないで食べてね」
琥太郎の不器用な優しさがうれしくて、思わず涙が込み上げてくる。