助手席にピアス
自分の思いをこんなに熱く語るのは、製菓学校に入学ために上京すると両親に打ち明けた時以来だ。
就職してからは毎日単調な仕事をただこなしている自分にも、まだ熱くなれるものがある。そのことがうれしかった。
「お願いします。私を助手にしてください!」
腰を九十度に折り曲げて、頭を下げる。すると、大きなため息が頭の上から降り注いだ。
「少し考えさせてくれ」
「……はい」
すぐにいい返事をもらえなかったことに、ガックリと肩を落とす。でも桜田さんが首を縦に振ってくれるまで、何度でも頭を下げるつもりだ。
「あの、モップかけてもいいですか?」
「……ああ。頼む」
桜田さんはそう言うと、奥の厨房に戻ってしまった。
九時の開店まであと、四十分しかない。ロッカーからバケツとモップを取り出すと、急いで開店準備に取りかかった。
午後一時になり、ショーケースに並べたケーキはすべて完売した。
閉店したガトー・桜の厨房のパイプ椅子に座り、作業台の上に上半身を投げ出す。そんな、ぐったりしている私の鼻にコーヒーの香ばしい香りが漂ってきた。
「ほら、お疲れさん」
投げ出していた上半身を起こすと、紙コップに入ったコーヒーが目の前に置かれる。
「桜田さん……お役に立てず、すみませんでした」
「別に期待なんかしちゃいなかったから、気にするな」