助手席にピアス
優しいのか、それとも冷たいのか、よくわからない桜田さんの言葉を聞いても、気持ちは浮上することなく、さらに落ち込んでいった。
私がこんなに落ち込んでいる理由は、ただひとつ。開店時間の九時を迎えると、途切れることなくお客さんが訪れる。息をつく間もない忙しさに、私は軽くパニックを起こしてしまったのだ。
よく考えれば、ケーキの名前も値段もレジの打ち方も知らない私が、ひとりで売り場を担当できるはずもない。そのことに初めから気づいていた桜田さんは、ケーキが売り切れるまで一緒に売り場に立ってくれたのだった。
「桜田さん。私、明日までにケーキの名前と値段を覚えてきます」
「まあ、そう焦るな。コーヒー冷めちまうぞ」
「はい。いただきます」
桜田さんが淹れてくれた紙コップのコーヒーをひと口味わうと、少しだけ元気が戻る。ホッとしながら私がのんびりとコーヒーを味わっていると、桜田さんはコックコートを脱ぎ始めた。
「コーヒーを飲み終わったら送ってやる」
「え? あの、私、これから桜田さんにケーキ作りを教えてもらうつもりで……」
身体はクタクタでも、ヤル気だけは燃え尽きていない。でも桜田さんは私の言葉を遮ると、棚の上に置いてある車のキーを手にした。