猫に恋する、わたし
長い、間が空いた。
わたしは彼の顔を見ることができなかった。
「…それ、どういう意味?」
しばらくして、彼の方から沈黙を破った。
ラムネ瓶の水滴がわたしの手の甲をゆっくりと伝っていく。
わたしは唇をぎゅっと強く噛んだ。
「わたしが、…お姉ちゃんに言ったの」
彼と付き合ってからも、お姉ちゃんはジレンマに悩まされていた。
好きな人に妹としてしか見られていない。
その苦しみから逃れたくて、お姉ちゃんは彼を選んだ。
幸せだったはずだった。
でもそれはひとときのことで、お姉ちゃんの中でどんどん膨らんでいく。
好きな人への気持ちが。
甘えていたのだ。彼の優しさに。
わたしはそのことが悔しかった。
彼がお姉ちゃんを大事に想っていることを知っているのに、知っていてどうしてその気持ちを踏みにじることができるのだろう。
だから、わたしは。
ーわたし、見たんだ。伊織君、他の女(ひと)とキスしていたよ。
お姉ちゃんの傷付いた顔が、今も忘れられない。
「わたしは、味合わせてあげたかったの。だって、伊織君の気持ちを知っているのに。お姉ちゃんは他の人のことばかり考えてた。だからそれがどんなに残酷なことなのか教えてあげたかったの」
彼は黙って、夜空を見上げていた。
花火はもう、暗闇を照らすことはない。
「だからわたしのせい。お姉ちゃんと伊織君が別れたのはわたしの、」
「莉子」