猫に恋する、わたし

駅前に行くと、ロータリーの噴水で智充君がこっちに向かって手を振っているのが見えた。


「合格!また忘れられるかと思ったよ」


といやみたらしく笑う智充君。


「もうそのことは言わないでよ。あたしだって反省してるんだから」

「ごめんごめん。でもよかった、来てくれて」

「そりゃ…約束してたから」


わたしは苦笑した。

まさか今回も忘れてたなんて言えるはずがない。


「じゃあ行こうか。この映画、評判いいんだよね」


智充君から手渡されたチケットを受け取る。

CMの予告でもよく流れているラブストーリーの映画だ。

菜々緒もよかったとか言ってたっけ。



駅からバスに乗って数分。

土曜日だからか映画館は賑わっていた。

わたしと智充君はそれぞれのポップコーンを買い、人ごみをかき分けてやっと座席に辿りつく。


「カップルばっかだ」


智充君がキョロキョロと周りを見回しながら言った。


「ラブストーリーだからね」

「俺らもカップルに見えるかな」

「え?」

「なーんちって」


照明が落ちる。

映画の始まりを告げるブザーが鳴った。
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