猫に恋する、わたし
だめだ。
わたしの中のずっと奥にしまっていた、キレイなココロが彼に負けそうになってしまってる。
これだけは言うまいと思っていたのに。
逃げていく彼のことをどうしても繋ぎ止めたくて。
「じゃあ、愛がなくてもいいからエッチして」
本当に谷口さんみたいに甘い台詞を言えたらいいのに。
彼はたいして驚きもしないで、無表情でわたしを見つめてる。
それから机の上にあった空の缶コーヒーの中に136本目のタバコをおもむろに詰め込んだ。
「じゃあタバコ買ってきてから、家来て」
やっぱり言うんじゃなかった。
わたしが虚しくなるだけだって分かっていたのに。
もしかしたら少しでも、彼がわたしのことを見てくれるかもしれないなんて、自惚れもいいとこだ。
「初めてだったん?」
シーツについた赤い血を見て、彼はタバコに火をつけた。
わたしが買ってきた、137本目。
こくり、と小さく頷くわたしの前で灰色の煙が宙を舞う。
上半身裸で、少しウェーブがかかったココナッツ色の髪をかきあげる彼の仕草に見とれていると、彼はため息交じりに呟いた。
「マジ重い」