猫に恋する、わたし
「なにしてんの」
「伊織君」
「あ?」
「嘘でもいいよ」
「…」
「伊織君が振り向いてくれなくてもいい。こうやってそばに置いてくれるだけでいい。どんな嘘でも、どんな時でも、伊織君がわたしのことを必要としてくれたら、それだけで嬉しい」
もういいや。
もう彼を振り向かせようと躍起になるのはやめよう。
ーあいつの良さは俺だけが知っていればそれでいいんで。
例え、あの言葉が嘘でも、
それでもわたしは彼から離れられない魔法にかかってしまったんだ。
「おい」
彼と目が合った。
わたしを真っ直ぐに見つめるその瞳は吸い込まれそうにキレイ。
「誰が嘘だって言った」
「えーーー」
突然訪れた、唇の温かい感触。
まさかのセカンドキスにわたしは戸惑いを隠せなかった。
「伊織君…」
逆光で表情がよく見えない。
ただ微かに彼の口端が上がっているのが分かった。