嗤うケダモノ
てか、日向サンが一番落ち着いてるのね。
まぁ、由仁の後ろにいて直接被害を被っていないのだから、当然と言えば当然か。
日向は安全地帯からひょいと進み出て、涼しい顔でガン見男に足払いを仕掛けた。
すると、彼女の意図を察した由仁が、男をホールドしていた手を放すと同時に後退する。
ハイ、ご想像通り。
そもそも由仁に向かって前傾姿勢になっていたガン見男は、見事、湿った土の上に顔からスっ転んだ。
ココからは、仲居サンSのお仕事デス。
土まみれになった男を素早く助け起こして。
両脇をガッチリ掴んで。
有無を言わさず、数人がかりで引きずって…
進撃のガン見男は、仲居サンSに連行されての退場となった。
血を吐くような、悲痛な叫びを残して…
「イヤだ!一人にしないで!
愛しているンだ!
千鶴子… 千鶴子─────!!」
(チヅコ…)
由仁の顔色が変わる。
が…
「久我様、大変失礼しました。
あの… お怪我は…」
「んーん。
だいじょぶ、だいじょぶ。」
その場に残ったかなり年配の仲居が申し訳なさそうに訊ねた時には、 もういつも通り艶やかに笑っていた。