嗤うケダモノ
由仁が階段上にある木戸を潜って出ていく。
入れ違うように、瑞穂が木戸を潜って入ってくる。
「清司郎さん、こんなトコロにいたの?
今、昨日のお客様が…
あら?おじさまとおばさままで?」
瑞穂の言葉で、清司郎は思い出したように、座り込んだままの孝司郎と瑠璃子を見た。
二人の丸められた背中は、やけに小さく頼りなげに見える。
きっと孝司郎は、元には戻れない。
集落の長にも、旅館の主にも。
瑠璃子だってそう。
今後どうするつもりかはわからないが、元には戻れない。
防波堤となる人も、道標となる人も、もういない。
でも、生きなくちゃ。
大人になって。
罪を償って。
幸せにならなくちゃ。
千鶴子が願ったように。
そして。
そして、いつの日か。
千鶴子によく似た彼と、笑って‥‥‥
「清司郎さん?いったいどう」
「ねェ、瑞穂。
僕、もっと頑張るから。
これからも傍にいてくれる?」
瑞穂の問いかけを遮った清司郎が、肩に置かれた彼女の手に自分の手をそっと重ねる。
驚く瑞穂の目に映った清司郎は、いつもよりほんの少しだけ大人びた顔で微笑んでいた。