嗤うケダモノ
「…
そうだな。」
「そうだ!天に帰るぞ!
悔い改め、徳を積むんじゃ!
おまえはいずれ、儂の跡を継いで天狐となる」
「ハハ、そりゃ無理だ。」
儂の言葉を九尾は遮った。
全てを諦めきった、悲しい笑顔で。
「人は不幸になるために幸せを願うのか?
何もかもを壊すために幸せを願うのか?
なぁ…
幸せって、いったいなんなんだろうな。
そもそも、幸せなんて本当にあるのかな。」
「っ…」
「すまない、親父。
そんなこともわからない俺は、神になんてなれねェよ。」
泣き笑いするように顔を歪めてそう言った後、九尾は飛び立った。
引き止めることが出来なかった。
追うことも出来なかった。
かける言葉さえ見つからず、去りゆく我が子を茫然と見送ることしか、儂には出来なかった。
人々にとって九尾の狐は、悪しき存在だっただろう。
だが彼は、心から人々の幸せを願っていた。
そしておそらく、誰よりも『幸せ』に憧れていた。
罪の意識と失望だけを抱えて、九尾は姿を消した。
それから永い年月を経て、九尾の妖力が解放されたのを察知して駆けつけてみると…