嗤うケダモノ







ハイ、バッチリ見られてマシタ。


「あー… アレ。
アレはコーヒーがおいしくなる呪文なンスよ…」


自嘲の笑みを浮かべた日向は、カっサカサに枯れきった声で呟いた。

コレ以上追及されないコトを必死で祈りながらも、ナニ食わぬ顔でグラスにアイスコーヒーを注ぐ。

そう。
早く状況を変えてしまえ。
早くこの場を離れてしまえ。

早く忘れてくれたまえ!!!


「さ、部屋に戻りましょう。
そーしましょう。」


トレーにグラスを乗せた日向が、早期撤退を促すが…

由仁はナニカに導かれるように、無言でキッチンに入ってきた。


「ちょ、… 先輩…
‥‥‥‥‥あ。」


焦りながら由仁を見上げた日向は、あるコトに気づいた。

それは、彼が自分を見ていないコト。
別のナニカを見つめているコト。

キッチンボードに置き去りにされた、まだ表面に水滴がついた小さなグラスを…


「ジーチャン、行っちゃったのー?」


軽い口調で由仁は訊ねた。

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