嗤うケダモノ

「ヒ‥‥ナ‥‥ 行け‥‥‥」


薄れそうになる意識の中、由仁は嗄れた声を絞り出した。

こんなハズじゃなかったケドさー。
ようやく傍に寄ってきたバニーちゃんと、色々イイコトしたかったケドさー。

彼女が助かるなら、こんな最期も悪くないンじゃね?

なのに…


「行けるか、このボケ!!
敵前逃亡なんざ、武士の恥だろが、ボケェェェ!!!」


ドスの利いた日向の声が、空を裂いた。

…ハイ?

武士って…ダレ?
笑わせンなよ。

ボケって…俺?
二連続はサスガにあんまりじゃねーデスカ?

由仁は霞む目に非難を込めて、日向に視線を向けた。

不明瞭な視界の中に、やけにクッキリ浮かび上がった彼女は…

両手にクッションを持って仁王立ちしていた。

膝をガクガク震わせて。
今にも零れ落ちそうな涙を、唇を噛んで必死で堪えて。


(あぁ… もう…)


由仁の頬が微かに緩んだ。

ココで喜ぶのは間違っている。
彼女は逃げるべきだった。

なのに、彼女があまりにも『心に描いていた彼女』らしくて、嬉しくてしょうがない。

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